サクラマス 2
学名:Oncorhynchus masou
英名:Cherry salmon, Masu salmon
野生種を残すために、日本の魚類学者は初心に立ち返り、「川固有の魚」が存在する意味を考えて、 研究をしてほしい! 〜サクラマスとサケがペアリングするようになった現場からの報告〜
日本ではサケの人工ふ化事業が盛んに行われてきた。 野生サケが上る川に、他の川のサケを放流(移植)して、サケの数を増やしてきた。
北海道南部では、野生サケは11月〜12月に川に上り、産卵する。
人間は、北海道南部の川に、9月や10月に川を上る「別の川のサケ」をたくさん放流(移植)してきた。
そのため、北海道南部の川では11月〜12月に川を上る「野生サケ」の他に、9月や10月に川を上る「移植 サケ」がたくさん見られるようになった。
そして、不都合なことが起き始めた。
野生サケはそれぞれの川ごとに、習性が違う。
そして、野生サケの他にも、川には野生サクラマスや野生アメマスが生息し、同じ川で産卵している。
北海道南部の川では、野生サクラマスは川の上流で9月に産卵する。
野生アメマスは野生サクラマスよりも更に上流で10月に産卵する。
野生サケは野生サクラマスよりも下流で11月に産卵する。
産卵場所は、野生サクラマスと野生アメマスは、石と石の間を川の水が流れている川底だ。野生サケは わき水が噴き出す川底である。
野生サクラマス、野生アメマス、野生サケはそれぞれに産卵する場所や産卵の時期が違い、産卵する川 底の条件まで異なっている。
野生サクラマス、野生アメマス、野生サケは、互いに産卵場所が重複しないように「棲み分け」ている。
これが、野生サクラマスや野生アメマス、野生サケが同じ川で共に生きてきた「仕組み」であり、言い 換えれば、魚と魚の「約束」である。
ところが、10年程前から、北海道南部では野生サケや移植サケが、野生サクラマスや野生アメマスが産 卵する上流まで上り、野生サクラマスや野生アメマスと同じ場所で産卵するようになった。そこには 「わき水」は無いはずなのに、産卵するようになったのだ。
どうしてそんなことが起こるのだろうか?
その謎を解くカギがある。
日本では、野生サケや移植サケが上る川にはサケの捕獲場があり、川を柵(スリット)で仕切っている。
この柵には仕掛けがあり、上流へ抜ける入り口が開けられている。
野生サケや移植サケは入り口を探し当て、上流へ上る。
そして、入り口通過した野生サケや移植サケは網の中に導かれてすべてが捕獲される。
しかし、一部の野生サケや移植サケは、この柵をいやがって、柵の下流で産卵している。
柵の下流で産卵する野生サケや移植サケは、わき水が無いところでも産卵していると見られる。
野生サケや移植サケは卵からふ化(A hatch out ?)するとすぐに「母なる川」の水の匂いを記憶し、「母 なる川」に回帰する習性がある。
野生サケや移植サケが「わき水」ではなく、表層を流れている「川の水」を記憶した場合には、野生サク ラマスや野生アメマスが産卵する上流まで川を上るようになり、野生サクラマスや野生アメマスが産卵す る同じ場所で、産卵するようになるだろう。
実際、野生サクラマスや野生アメマスが産卵した後に、川を上ってきた野生サケや移植サケが野生サクラ マスや野生アメマスが産卵した場所を掘り返している。
これでは野生サクラマスや野生アメマスの資源が減少してしまう。
また、私は野生サクラマスが産卵している9月に、野生サクラマスの♀と移植サケの♂がペアになってい るのをたびたび目撃している。
実験レベルでは「サクラマスの♀とサケの♂の交配」について、「受精した卵は細胞分裂は進むものの、 ふ化することは無い」とか、「ふ化したものがあったが、生き残ることはなかった」と報告されている。
しかし、今年(2009年)の9月、川の上流の淵で、サクラマスなのか、サケなのか、区別できない魚を 見た。
これが野生サクラマスと移植サケとの交配種であるのなら、近い将来、DNAにも影響が現れてくるだろう。
自然界で長い年月をかけて、ようやくお互いが交配しないように、絶滅しないように、「棲み分け」を して、共存の道を確立してきたのに、その「約束」が崩れはじめた。
日本ではサクラマス資源が急速に減少している。
このままでは、近い将来、野生サクラマスが絶滅することが予測される。
魚の生態学の研究者は、今一度、初心に立ち返って、川ごとに違う野生サケの習性と生存している意味 を詳細に研究してほしい。
私の野生サクラマスの撮影現場からの警鐘としたい。
1. 野生サクラマスのメスと移植サケのオスのペアリング(手前が移植サケのオス、奥が野生サクラマス のメス)
2. 野生サクラマスのメスが卵を産み落とすための産卵床を掘る(手前は移植サケのオス)
3. 野生サクラマスのメスと移植サケのオスのペアリング(手前が移植サケのオス、奥が野生サクラ マスのメス)
4. 野生サクラマスのメスに移植サケのオスが体を震わせて求愛する(手前が移植サケのオス、 奥が野生サクラマスのメス)
5. 野生サクラマスのメスが卵を産み落とす産卵床を掘る(手前が野生サクラマスのメス、奥が 移植サケのオス)
6. 野生サクラマスのメスの体は傷だらけだった(川の途中にあるサケの捕獲柵を乗り切ろうとして、 何度も体当たりして体中が傷だらけになったと見られる)
7. 野生サクラマスのメスにはナイロンタグが付けられていた。研究のためには必要なのだろうが、 傷だらけの姿は痛ましい
8.ナイロンタグは野生サクラマスの体に深く突き刺さっている。ナイロンタグには4個の目印が されている