エッセー
ダムは完成してからでは撤去は困難だ。ダムを作る前に既設ダムの検証を! 2006年2月1日
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稗田一俊(北海道自然保護協会理事・遊楽部川の自然を守る会)
まず、サンルダムの問題を考える場合、すでに建設されたダムとその下流の検証を是非やってほしい。特に、サンル川は天塩川という大河川でありながら、大きなサクラマス資源が今なお息づき、良好な産卵環境が残された貴重な川である。
サンル川のサクラマス産卵河川の影響を知るためには川にダムがあるサクラマスの保護河川で、サクラマス資源にどのような影響があらわれているのか、検証をすることを勧めたい。私が知る道南のサクラマスの保護河川「見市川」ではサクラマスの産卵域の上流に砂防ダムや治山ダムがあり、これらダムの下流域で産卵しているのだが、このところ、産卵に適した握りこぶし大の石が激減し、産卵に適さなくなり、産卵場が縮小したり、消滅している。また、一方では河床に細かい砂や泥がたまり、サクラマスが河床を掘ると濃い泥の煙がもくもくと立ち上る。これは今までになかったことである。河床に砂泥が大量に沈殿しているとみられることから、産み落とされた卵が育つ河床の「透水性」が萎えていると見られる。
道立水産ふ化場で全道のサクラマス資源調査をしているが、現場の担当者からはサクラマスの資源量が保護河川ですら激減していることが指摘されている。同様に松前町の大鴨津川・子鴨津川や乙部町の突符川はいずれもサクラマス産卵河川として保護河川になっているが、荒廃は進んでおり、サクラマスの資源量が激減している可能性がある。
サンルダムの是非を問うならば、ダムのあるサクラマス保護河川の検証を実施することわかりやすいだろう。
また、ダムの受益者もダム建設後に川にどのような問題が起きているのか、そして、その問題は解消できるのものなのかどうか、一緒に検証し、ダムの取り返しのつかぬ問題を学んでいただきたいと思う。
それではダムができるとどうなるか、そのあたりを紹介しよう。
川には砂利が流下する仕組みがある。しかし、大量の砂利が川を流れたら災害に結びつく。そこで災害を防止するために砂利を食い止める砂防ダムが造られてきた。川の水は高いほうから低いほうへと流れる。大量の水が流れたら災害が発生しかねない。そこで川を流れる水量を制御するために治水ダム、発電・灌漑。水道などを兼ねた多目的ダムが造られてきた。
大雨で増水した川は流速が速まる。流速が速まれば川底の砂利を押し流す「掃流力」は大きくなり、川岸や川底から砂利をはたき出して下流へと押し流すことになる。
つまり、大きな掃流力は川底や川岸の侵食作用を増す。その結果、川底の砂利が流され失われると川底が下がる。これは「河床低下」である。河床低下は川岸と川底との落差が開くことでもあり、川岸から石がズリ出したり、転げだすようになり、川岸が崩れ(河川崩壊)、川に面した山の斜面がずり落ちる(山脚崩壊)。だから、川底が低下しないように砂利の消失を抑える治山ダムや谷止工、床固工、落差工、帯工などと呼ばれる川を横断する構造物が造られてきた。
その他にも河川を横断する構造物は農業用取水堰(頭首工)、ボックスカルバートを含む橋梁の基礎などなど、様々にある。
これら河川横断構造物はどれも川を流下する砂利を抑える効果がある。
川には砂利が流下する仕組みがあることを思い起こしてほしい。どんな川でも日常的に「砂利が流れている」。増水すれば掃流力は大きくなり、流れる砂利の量が増える。「砂利が流れている」のが本来の川なのである。
そして、身近にあるどんな川でも気の遠くなるような長い地球時間の中で、言い換えれば「自然の輪廻」の中で、水が大地を流れ侵食して川を作ってきた。その長い年月の間に水の浸食作用が弱まり、砂利の産出が減って、今の川のように水の流れが安定したわけだ。だから、流下する砂利の量はきわめて小さくなっている。川岸には浅い渚帯、水際まで生えた草木、水面から顔を出した石の表面や川岸の石は苔むし、川岸や中洲には樹齢100年を超える大木が育つことができた。つまり、「川は安定」してきたのである。
その川がこのところどうも変なのだ。最近では川岸から大木が消え、中洲の草木も見られなくなり、苔むした石が見あたらなくなってきた。
世界自然遺産に登録された知床の岩尾別川を例にあげてみよう。岩尾別川は知床半島にあって、かなり急峻な川でも川岸は崩れることはないのだ。
しかしである。100年も持ちこたえた木が今、倒壊の危機を迎えている。川底が急激に下がり、カツラの根元は川岸が倒れて根っこがむき出しになってぶら下がっている。川岸の石はズリ出したり、転がり落ちて、苔むした石はごくわずかしか見られなくなった。そればかりではない。川岸は垂直な壁になって、崩れ始めている。どこもかしこも川岸は垂直になり、川岸からは石がズリ落ち、転がりだし、川岸の崩壊が連鎖的に起きていることがうかがえる。この状況なら大雨で増水したら、ひとたまりもなく川岸は崩れるだろう。岩尾別川は川岸の崩壊寸前に達している。
仮に川岸が崩れ、大量の土砂が流下し、川岸から倒れこんだ大木が流木となれば、下流で災害が発生する恐れすら感じる。災害を予見させるに十分な姿が岩尾別川にある。
川岸の大木がかろうじて残された岩尾別川は2005年に世界自然遺産に登録されたけど、川岸が崩れ、樹木が失われる初期の段階の北海道の川の姿を見せてくれている。